とりあえず動くレベルであれば僕のような初心者でもなんとかなるレベルで自作キーボード界隈の環境は整っているよという話を書きます。
前置き
元々メカニカルキーボードが好きで、既製品やキットの組み立てあわせて10個くらいキーボードを持ってます。一方で電気回路とか基板とか3Dモデリングの知識や経験は一切なく、本当に何から始めたらいいかわからない地点からのスタートでした。
全く経験のないことに没頭する充実したGW+αだったので、備忘録もかねて書こうと思います。
KiCADのデータやSTEPファイル、QMKファームウェアはGitHubに公開しているので、興味のある方は覗いてみてください。
どうでもいい情報ですが僕の好きなキースイッチはHMX GachaponとDurock Ice King Linear、好きなプロファイルはPBS Profileです。みなさん是非買って試しましょう。
きっかけ
私は格子型配列、所謂オーソリニアなキーボードが大好きです。タイルのように整然と並んだ見た目や打鍵時の効率的な運指など、通常のキーボードにはない魅力に溢れた配列です。さらに40%サイズとの相性が良いと(勝手に)思っていて、運指のしやすさがそのまま別レイヤーへの移動のしやすさに直結して(いると勝手に思って)います。
Quarkeys Z40。無刻印のXDAキーキャップ装着で見た目優勝
ロウスタッカードやカラムスタッカード, Alice配列を使ってきましたが、最強はオーソリニアなのだと確信しています。個人の意見です。そんなこと言いつつ最近はGrin配列気になってます。
堕落猫さんのNoraneko42R。ぐにっとした姿が可愛い。
特にスペースが2Uな47キーのオーソニリアを愛しているのですが、これまで購入したオーソリニアは3つあります。
- Planck EZ
- Quarkeys Z40
- CSTC40
それぞれがそれぞれの良さをもっていて、非常におすすめできるキーボードです。
Planck EZは傾斜がなくフラットな形状のためMacBook上で運用する所謂尊師スタイルに適していますし、Quarkeys Z40はロープロファイルスイッチ対応なためキーボードの高さを抑えてコンパクトに仕上がります。CTSC40は小さいTOFUケースのような見た目が可愛く、程よい傾斜が手首に優しいです。
一方で、満たされない点もあります。
キースイッチはキーキャップとケースで完全に隠れて外側からは見えない状態にしたい、USB-C-USB-Cケーブルで使いたい、TypeStickのような別製品なしに尊師スタイルしたい、気分でキースイッチを変えたい(ホットスワップ対応したい)などなど…
全部が満たされないわけではないけれど、全部を満たすキーボードに出会えていませんでした。
一時期Z40でいいじゃないかと思った時期もあったのですが、Z40は上述したUSB-C-USB-Cケーブルが使えない+ホットスワップ非対応なキーボードです。
とはいえケーブルがUSB-C-USB-Aでも少し気になるだけで大した問題ではないし、直に半田付けしたキースイッチはLofree Ghostなので打鍵感も抜群です。
ただ一つだけずっと気になってしまっていたのは(これはZ40が原因というよりchoc v2 switchが原因ですが)、私が愛してやまないPBS Profileのキーキャップがキースイッチに干渉してしまうことでした。
Z40 + Lofree GhostにPBS MV Classicを装着して見た目は優勝しつつ、たまに沈んだまま返ってこないキーにイライラしながら、それを補って余りある見た目と軽さを理由に我慢しながら打鍵していたある日、こちらの記事に出会います。
QAPen_nya語り、おかわり。①Emperor Penguin Style
実際にキーボードを設計してみた経緯が書かれた記事で、読みやすい文体のなかにあった「理想は、ほどほどにつくれる。」という一文が、「うだうだ言ってる時間で自分で作っちゃおう」と決意するきっかけになりました。(キーキャップがPBS MV Classicという部分も、もしかしたら効果抜群だったのかもしれない)
そんなわけで、何から始めたらいいかさっぱりわからない私の、GWの宿題(工作)が始まったのでした。
企画・設計
やったことがないことは想像することもできず、右も左もわからん状態だったため、自作キーボード 設計
をキーワードにググり、出てくる記事を読み漁りました。
そこで、大体の人が同じ書籍を参考にしていることを知ります。
読めばわかるんですが、必要なことは全てここに書いてあるといっても過言ではないバイブル的な1冊に早々と出会ってしまいます。
KiCADを使って回路や基板を作成するというような技術的な話はもちろん、キーボード設計の各工程や業者への発注手順など、マジで誇張一切なしで1から10まで書かれています。
バイブルとの出会いに浮かれて気持ちはキーボード制作玄人になった私は、将来的なケース自作も視野に入れながら、設計するキーボードの要件を以下の通り定義しました。
- 2Uスペースのみ選択可能な47キーのオーソリニア配列であること
- ホットスワップ対応であること
- USB-C-USB-Cケーブルが利用可能であること
- PBS Profileキーキャップをストレスなく利用できること、すなわちchocなキースイッチではなく通常キースイッチでの利用を想定すること
- 可能な限り薄くすること
- 尊師スタイルでの利用を前提にするため、傾斜はつけないこと
- Nuphy Airシリーズのようにキーボード単体でラップトップ側のキーボードに干渉することなく尊師スタイルが可能であること
- できるだけネジを使わず、プレートの固定などにはマグネットを使うこと
書き出してみると尊師スタイルにちょっとこだわってるだけのなんら変哲のないキーボードですね。
基板制作
要件が決まったら自キ設計ガイドとにらめっこして回路と基板を作っていきます。
幸いLEDのピカピカには興味がないし無線化への欲求もないため電源周りを気にする必要がなく、スムーズに制作は進んでいきます。
ガイドの説明が丁寧なのはもちろん、いまいち記載の意味が理解できない場合でも有志の方が公開しているデータや記事がたくさんあり、どんどん解決していきます。
さらにはフットプリントやシンボルを惜しみなく公開してくれていて、先人達が整備した道を歩く若干の気力さえあればつまずくことはほぼなかったです。
逆にいうと整備されすぎていて自分が何をやっているのかさっぱりわからなくても作れてしまうという、正体不明の恐怖が少しばかりありました。
コミュニティの方々が優しく、配線の太さはどれくらい気にしたほうがいいのかとかベタGNDって一体どういう存在なんだとか初心者丸出しな質問に対しても快く教えてくださいました。その節は大変お世話になりました。ありがとうございます。
「キーボード名 designed by ryoo」って書いた基板をSNSにアップロードして気持ちよくなるという学園祭ライブで熱唱レベルの妄想をしていた時期もあったため、実際に基板下に文字を入れる時はちょっと感動してしまいました。
結果、designedをdesigndにタイポして発注しています。
基板制作を一通り?経験した今だから言えますが、配線という行為にはセンスが求められます。本当です。私はスパゲティしか生み出せませんでした。
サンドイッチケース制作
自分が何をしているのかわからないうちに基板データができあがり、よくわからないけど発注もできてしまったため、基板到着まで暇な時間ができてしまいます。
KiCADをいじっている時間が楽しすぎて極度の寝不足に陥っていた私は、そのままのテンションでスイッチプレートとボトムプレートの制作に着手します。
プレートとプレートでサンドイッチするだけなので簡単だろうと適当にネジ穴を開けてえいやで発注した結果、スペーサーと基板が思いっきり干渉してサンドイッチできないことに生産開始後気づきます。泣きながらクリアランスちゃんとした版のプレートを再発注しました。
プレートは外形きちんと書くだけなので難しいこともなく、さらに余った時間でQMKファームウェアも書きあげました。
Version 0.1完成
同時に注文していたマイコンボードやネジ類が我が家に到着してしばらく、基板とプレートも到着します。今では見慣れたJLCの青い箱も、初見ではちょっとだけ特別感がありました。
ウキウキしながらマイコンボードを基板に取り付けようとして想定していた向きと反対でしか取り付けられないことが発覚したり、ファームウェアのピン番号ミスで3, 4行目が全く反応しなくて絶望したりしましたが、とにもかくにもキーボードとして動作するVersion 0.1が完成したのでした。
悦に浸るまもなく見つかった課題を解消したVersion 0.2の基板を発注し、到着を待つ間に3Dケース制作に着手します。
3Dケース制作
基板設計と同様、3Dケース制作も何から始めていいのかわからなかったのですが、こちらもとても参考になる記事に出会うことができました。
Autodesk Fusionを使って簡単なトレイケースを制作する記事ですが、ケースの作成について画像付きで全て解説されており、大変参考になりました。この記事をしっかり読めばトレイケースを作成できると思います。
要件に書いたようにネジレスも目指してネオジム磁石を埋め込む窪みを作ったり、Nuphy Airfeet用の窪みを作ったりと、これまた連日遅くまで制作していたため凄まじい寝不足状態に陥りました。
Version 0.2完成
課題解決版の基板とこれまたえいやで発注した3DPケースが届き、プレートサンドイッチよりもかなりキーボードっぽいVersion 0.2が完成します。
Version 0.1完成から一週間と少しくらいしか経っていません。
0.2も色々勢いで制作したため、マイコンボードがケース底面に接触してしまったり、ドーターボードと基板が接触してしまったりと課題だらけでした。
そこからできる限り高さを抑え、接触箇所が減るように部品の配置を変えたり試行錯誤を繰り返した結果、今この記事を書いているVersion 0.2最終版が完成しました。今のところ毎日使っています。
Version 0.3と今後の話
イケア効果というものは恐ろしいもので、客観的にみれば洗練された製品感も全然ないし凝った見た目もしていないのですが、毎日「このキーボード最高か?」とニマニマしながら使っています。
とはいえマイコンボードをコンスルーで浮かして設置している関係でどうしてもキーボードに高さが出てしまい、尊師スタイルでの利用中に許容できないレベルで手首の痛みが出てきたため、6月に入ってからはマイコン直付け基板であるVersion 0.3の制作に着手しました。
マイコンボード利用時は意識しなくてもいい数々の部品の意味をChatGPTに質問しつつ、PCBAで選択できる製品の違いが全然わからないながらもなんとか完成までこぎつけ、今の所問題なく動きそうな気配がしています。
RP2040直付け基板、スタイリッシュでかっこいいです。
今は0.3用の3DPケースが届くのを楽しみに待っていて、ケースが問題なければ0.2から完全に移行しようと思っています。
およそ2ヶ月、自分のキーボード基板とケースを作ることに没頭した私ですが、没頭するあまり色々と失ったものもあります。
- お金
- 家族との時間
- 睡眠時間
自設計ケースのアルミ削り出しもやってみたかったのですが、レジン製3DPケースの出来が思った以上に良いことと、やってみたさと価格とが釣り合っていないこともあって、アルミはもういいかなぁという気持ちです。
0.3用のケースのできもよければRHYn47は完成として、私の理想のキーボード制作は一旦おしまいにしたいと思います。
私のような前提知識0の人間でも基板とケースを設計・制作できてしまうくらい、自作キーボード界隈は情報が整理されています。「設計に興味はあるけど、難しいんだろうな」なんて迷っている方、是非チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
理想のキーボードを設計して、イケア効果を一緒に体感しましょう。
この記事はRHYn47 v0.2で書きました。